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食べるしあわせ
旅の食卓から世界が見える 「旅の食堂ととら亭」店主 
久保栄治
最終回 ギョウザをめぐる旅
 新宿から西武新宿線で約15分。野方駅すぐにある「旅の食堂ととら亭」は、旅先で出会った世界各国の料理を旅のメニューとして提供するレストラン。日本人の口に合うようにアレンジはせず、現地で自分たちが食べた“感動の味”を再現することにこだわっている。

ポーランドの「ピエロギ」。ひき肉、キノコソテー、ポテトとチーズ、豆、さらにはフルーツのコンポートを入れたデザートバージョンまで、さまざまな具を入れて包む
――6月下旬の取材旅行で訪れたのは、ポーランド、スロバキア、チェコ。この3カ国を旅先にしたのには、何か目当ての料理があったのでしょうか?

 実は僕たち、ずっとギョウザを追いかけているんです。ギョウザというとまず中国を思い浮かべる人も多いと思いますが、小麦粉に水を加えて薄く伸ばした皮に肉やエビ、野菜などの具を入れて包んだ料理は、世界各国に存在しています。ポーランドにも、ロシアから伝わった「ピエロギ」という庶民の料理として根づいたギョウザがあって、現地では専門店もあります。中の具も多彩で、甘いジャムが入ったデザートのようなものまである。それを確かめるのが、今回の旅の目玉でした。

厚めのもっちりした皮でポテトを包み、茹で上げたスロバキアの「ピロヒー」
――「世界の餃子特集」は、過去に企画した旅のメニューの中で最もヒットしたテーマだ。その際は、イタリアとドイツとトルコのギョウザを再現したそうだ。

 ドイツのギョウザは、南ドイツにあるシュバーベン地方の料理「マウルタッシェン」。シュバーベン地方は北イタリアと接しているので、イタリアのギョウザ「ラビオリ」が伝わったと考えられています。トルコのギョウザは「マントゥ」。ちなみに韓国のギョウザは「マンドゥ」といいます。これが気になって、昨年末にはマンドゥの作り方を習いに韓国へ行きました。

――中央アジアに詳しいお客さんからギョウザの情報を入手し、昨年6月には東ヨーロッパと西アジアの間に位置するコーカサスの国々を訪れた。

モチモチの皮でヒツジのひき肉を包んだアゼルバイジャンの「ギューザ」
 南コーカサスにあるアゼルバイジャンでは、その名も「ギューザ(Gyorza)」という名前でした。どうして日本と同じ名前なのかが気になって、それでギョウザのルーツを追いかけ続けています。どこで誕生したのか、誰がいつ運んだのか。発祥地に関する仮説はたくさんありますが、その中でも有力な説が2つあります。一つは、ウイグル自治区のウイグル族が始まりという説。もう一つは、小麦の生まれたところ、つまりメソポタミア(現在のイラクの首都・バグダッド)説。まだ仮説探しの段階ですが、いつか発祥地にたどり着けたら面白いですね。

――世界各国に点在するギョウザ。その名前や具、包み方などにもそれぞれ特徴がある。それを地図に書き込んでいき、俯瞰してみると、何かがわかるかもしれない。ちなみに、来年の取材旅行は中央アジアのウズベキスタン、カザフスタン、キルギスに決めている。二人には、まだまだ訪れなければならない国がたくさんありそうだ。

ジョージア(旧グルジア)の「ヒンカリ」はかなりの大きさ。中の具もピエロギ同様に、ひき肉、キノコソテー、ポテトとチーズなどさまざまな種類がある
 世界は広いですよね。僕たちは46カ国を旅したけど、国連の加盟国が200近くあるので、まだそのうちの4分の1しか行っていない計算です。しかもアメリカのような大きな国の場合、ニューヨークだけを見てアメリカを知ったとはいえませんよね。すでに行った国でも別の町を訪れてみたいし、すでに行った町でも違う季節にもう一度訪れてみたい。行きたいところに全部行くには、4回くらい生まれ変わらないといけないかな(笑)。地球はそれだけ広いんですよ。

――世界各国へ足を運び、実体験を通して得たものを伝えたいという久保さん。「旅の食堂 ととら亭」の本質はここにある。

 僕たちはこの店で「情報」を伝えたいのではありません。「食」は世界中の人が行っている、ある意味で「万国共通の言語」ともいえますが、それは情報ではなく体験なのです。僕たちが「おいしいな」と思った料理を日本で再現して、店に来てくれたお客さんが食べて「おいしい」と感じること。その感覚を共有する中で、違う国の文化を伝えていきたいのです。

――同じ体験を通して感覚を共有する。言葉ではなく、人間にとって最も身近な世界共通の「食」という行為を使って、人と対峙しようとしている。取材旅行の大きなテーマとなっているギョウザのルーツを探りながら、「旅の食堂ととら亭」の旅はまだまだ続きそうだ。

(構成:山下あつこ、料理写真提供:久保栄治)


【かもめ編集部から】
 編集部のおいしいもの好きが集まってアゼルバイジャン料理を食べに行ったのが、「旅の食堂ととら亭」との初めての出会いでした。そのとき料理を運んでくれながら、歴史や気候、旅の失敗談にいたるまで、さまざまなエピソードを面白おかしく話してくれた久保さん。その話しぶりの上手さに思わず、「今度ぜひ取材させてください!」とお願いして実現したのがこのインタビュー記事です。ちなみに、ととら亭では9月末までインドネシア料理を特集中です。詳細は下記ホームページをご覧ください。

【「旅の食堂ととら亭」のホームページアドレス】
http://www.totora.jp/
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【旅の食堂ととら亭】
ととら亭の「ととら」とは、南米大陸のペルーとボリビアに広がるチチカカ湖畔に群生する葦の名前からつけられた。チチカカ湖に浮かぶ小さな浮島に住むウル族は、この葦を用いて浮島や家、ボートなどを作り上げる。500年以上も前から変わらない暮らしを続ける彼らの生活を足元から支えるのが、この葦だ。栄治さんは、「トトラとは、もしかしたら失われた言語であるウル語が語源なのかもしれません」と話す。なお、「旅の食堂ととら亭」はテーブル席12席とカウンター席4席。原則、毎週火曜定休。※詳細は上記ホームページを参照。
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