第12回 マドレーヌの香り広がる港町の味噌(太田與八郎商店・宮城県)
今年(2021年)で市制80周年を迎える宮城県塩竈市は、仙台駅から電車で約15分。日本三大船祭の一つとされ、全国有数の規模を誇る海の祭典「塩竃みなと祭」が開催される東北内でも有数の港町です。また、地元で「しおがまさま」と愛される鹽竈神社は江戸時代には伊達家の厚い崇敬を受けた格式高い神社で、祀られている三柱(みはしら)の神のうち、鹽土老翁神(シオツチノオジノカミ)は日本神話にも登場し、人々に塩づくりを教えた神様と伝えられています。
そんな塩竃の地に、1845年(弘化2年)創業の太田與八郎商店があります。現代で言うホテルや宿屋である旅籠屋(はたごや)を営んでいた後、4代目が味噌醤油の醸造業も始めました。創業時につくられたシンボルマークの「イゲタヨ印」は、「良い仕込み水に恵まれ、品質の向上が図られること」を願い、代々襲名される「與八郎(よはちろう)」の1字を井桁(イゲタ)の中央に取り入れたものです。
店主の太田真さんは、宮城県で味噌と醤油をつくる蔵元の若手グループ「仙台味噌醤油若手みその仲間」の一員として、塩竃市との連携やSNS発信などに積極的に取り組まれている、とても熱い心意気と行動力がある方です。
味噌を仕込むFRP容器に滑車が付いているのは珍しい
容器の中では「マドレーヌの香り」の味噌が熟成のときを待つ
太田與八郎商店に見学にうかがったときの味噌の香りは、今まで味噌めぐりをしてきた中で3本の指に入るほど、とても印象強く残っています。
味噌の表現をするときに、ワインのソムリエさんのような表現ができたら良いなと思ったことと、ワインやウイスキーを熟成させる際に使われる「樽」と味噌の熟成に用いられる「木桶」には何らかの共通点があるような気がして、スピリッツ(醸造酒)を何百種も試飲し、学んでいた時期が2年間ほどあるのですが、太田與八郎商店の蔵では、まさにこの経験が生きました。
それまで出会ってきた香り高い味噌を表現する際は、リンゴやバナナといったフルーツを代名詞にしてきたのですが、それらの香りとは異なり、ダークラムやキルシュ(サクランボのリキュール)のような、はたまたナッツのリキュールやバターを思わせるものだったのです。
熟成の進んだラムのように、温度変化とともにだんだん香りが開いていくようで、「この場にずっといられる!」とワクワクしている私に、「この瞬間の香りを、お客さまにも感じてほしいなと思うことがあります。マドレーヌのような香りなんです」と説明してくれた太田さん。そうです! まさにマドレーヌ!! マドレーヌにはバターも洋酒が使われているので、まさにぴったりな表現だと思いました。
味噌の香りは焼き菓子でも表現できるのだと、新しい扉が開いた瞬間でした。(つづく)
◆岩木さんセレクトのイチオシ味噌◆
吟醸蔵一番
【種類】米味噌
【配合】麹歩合8割、食塩相当量12g
【色】赤色(熟成期間半年~1年)
辛口ながら塩角(舌を直接に刺激する塩味)はなく。まるで貝のエキスが入っているかのような旨さがあります。お湯に溶いたときの立ち上がる香りが最高です。そのまま置いておいて香りの変化をぜひ楽しんでほしいです。
(写真提供:岩木みさき)
★岩木みさきさんが味噌との出会いや奥深い魅力について語るインタビュー「今こそ伝えたい、味噌の力」もぜひお読みください。【実践料理研究家・岩木みさきのみそ探訪記】
http://misotan.jp