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LETTERS 古典と古楽をめぐる対話
俳人 × 音楽家
小津夜景 × 須藤岳史
第19回 隠された接続詞(上) (須藤岳史より)



 お手紙ありがとうございます。音のない花火と小さな流れ星、四川から繋がるランタン祭りの様子、情景が目に浮かぶようです。そして、物語との間柄のお話、頷きながら拝読しました。

 接続詞のない文章というと叙事詩や神話を思い出します。接続詞を減らすほどに、物語は文章を離れて声の語りへと近づき、構造に隙が生まれます。隙というのは何かの入ってくる場所でもあります。

 ここで思い出すのは「ことばによる表現の根底には声としてのことばが潜んでいる」(W-J・オング『声の文化と文字の文化』藤原書店)という、当たり前のことながらついつい忘れてしまわれがちなことです。オングが同書で引くように「声とは二次的なモデリング・システム」(ユーリイ・ロトマン)であり、そこには先行する「声」がいつも潜んでいます。文章は接続詞を増すほどに論理的になりますが、その代償として「語りの声」が潜む場所が潰されていきます。声は音であり、音にはそれが響く空間=隙間が必要なのです。

 では、その隙を生み出すための肉体にはどんなものがふさわしいかと考えた時、まず思い浮かぶのが「取るに足らない」と思われるものです。「取るに足らないもの」とは役に立たないものや、どうでも良いことの総称ではなく、「文脈を欠いたもの」あるいは「文脈を拒絶するもの」を指しているのではないでしょうか? あるいは「ささやかなもの」と言い換えても構わないと思います。あなたのお手紙との呼応も含めて、こんな文章を思い出しました。


 わたしの指先に触れるものは何もない。
 秩序にも、意味にも、平和にも我慢がならない。わたしは時間の後遺症を集める。今までけっして理解したためしのない過去と現在の規則をずたずたに引き裂く。
 ロゴスはかつて「収集」を意味した。わたしは瓦礫を集め、はかない光の切れ目を集め、「死の隙間」を、邪魔者を、道に外れたものを、人知れぬ巣穴の「猥雑なもの(ソルディディシマ)」を集める。夜は様々な世界の底をなす。すべてが〈非言語(ノンランガージュ)〉の世界に向かっている。わたしは、かつて規範もなく、歌もなく、言語もなく、世界の起源に向かってさまよっていた物たちを呼び戻そうとした。

―パスカル・キニャール著/高橋啓訳『音楽への憎しみ』(青土社)より


 ここでのキニャールの趣味は、懐古的であり、極端であり、そして表現は些かシニカルです。しかし、言わんとしていることの根底には「ささやかなもの」がもつ、何者にも縛られない、「意味」の付与を免れ続ける存在の輝きを文章の世界へと向かわせ、空間へと固定された言葉を非言語的な起源の世界、つまり産まれつづける「今」へと開いてゆこうとする姿勢が見え隠れしているような気がしてなりません。

 (ラカン的な)象徴界に属する言葉の非一貫性、矛盾、あるいは言葉と出会い損なうことによる躓きが生み出す「裂け目」が、ふと現実界への扉を開けてしまうことがあります。現実とは恐ろしいものです、しかし人間は現実へふれることへの恐れと憧れを同時に持っている存在です。こちら側へと止まりながら、恐れと憧れの揺れ幅を憧れの方へと傾け、現実と出会い、再び生還する技術(生還すればまた繰り返すことができます)こそが、文芸や音楽までも含めた芸術のもつ技(まさに言葉通りの)なのだと思います。

(つづく)



【須藤岳史 Twitter】
https://twitter.com/Artssoy

(写真提供:著者)

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【おづ・やけい × すどう・たけし】
◆小津夜景◆1973年北海道生まれ。句集に『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂)。翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版)。フランス・ニース在住。

◆須藤岳史◆1977年茨城県生まれ。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者。オランダ・ハーグ在住。
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