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LETTERS 古典と古楽をめぐる対話
俳人 × 音楽家
小津夜景 × 須藤岳史
第17回 未来を読むこと(上) (須藤岳史より)



 明けましておめでとうございます。クリスマスの穏やかな食事のご様子、トレーズ・デセール(13のデザート)のなかの美しい名前の品々、お菓子作りのストイシズム、食材が秘めた音のお話から、様々な「ふわふわ」のイメージへの広がりまで、読んでいてこちらまでうきうきしてしまいました。

 今年のクリスマスと年末年始は、久々にオランダの自宅で過ごしました。子供たちとボードゲームをしたり、手間のかかる料理を作ってみたりと、時間に追われている日常とは少し違ったことを楽しみました。

 オランダの大晦日といえば花火です。日本で暮らしている頃は花火といえば夏のものだったのですが、20年近いオランダでの暮らしの中で、「花火」は新たな個人的な新年の季語となりました。多くの住民が年の変わるタイミングに合わせてめいめいよりどりの花火を打ち上げます。この花火がなかなか豪快で、免許がないと取り扱いができない量の火薬を含むものまで(オランダの法の下では禁止されているので、ベルギーから流れてくるそうです)、ほろ酔いで打ち上げられるので事故も絶えませんが、外は戦地さながらの轟音に包まれ、夜空には多くの花が開きます。

 休暇中は1冊の長い物語を読みました。ここ数年は、短い物語や短詩型文学、人文書が読書の中心だったので、長い物語を読むのは久々でした。長い物語を読むことは不思議な営みです。物語の中に時間をかけて入り込み、物語を通してひとりの人間が生きることの叶わない長い時間や別の人生を体験することができます。

 そして、物語を通して「真実というのはあまたに存在するものだ」ということを思い出します。事実と真実は異なります。真実が多様なのは、それがどういう文脈で捉えられているか、言い換えるならば、どういう物語に組み込まれているかで変わります。そして、そこには時間の問題もあります。ある真実がひとりの人間の中で時を経て全く正反対のものに変わってしまうこともあります(物語のなかのひとつの真実は名誉でもあり傷でもあるのです)。多かれ少なかれ、人は物語を生きることによって、生かされ、救われている部分もあります。一瞬の輝きの対極にある、文脈のつながりである物語。

 物語を紡ぐとは、エピソードに接続詞を与えることです。接続詞が生み出すのはまとまり同士の関係であり、その関係が時間の流れのなかに立体的な家を建てます。考えてみれば、わたしたちが「現実」と読んでいるものもまた、かなり主観的な取捨選択を経て組み立てられたかりそめの家だということもできますね。そこで思い出すのはエンデの言葉です。


私の考えでは、ファンタジーというものは現実から逃げるための手段ではなく、現実に到達するためのほとんど唯一の手段です。(ミヒャエル・エンデ)
山口昌男『身体の想像力』(岩波書店)より


 文中の「ファンタジー」を「物語」へと置き換えると(全ての物語はファンタジーであるともいえますが)、話はよりわかりやすくなります。物語の構築により、ひとつの現実を作り上げ、それを通して謎を解いたり、かりそめの真実を見出したりしながら、私たちは生きています。だから生そのものが見出されたひとつの物語ともいえます。

(つづく)



【須藤岳史 Twitter】
https://twitter.com/Artssoy

(写真提供:著者)

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【おづ・やけい × すどう・たけし】
◆小津夜景◆1973年北海道生まれ。句集に『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂)。翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版)。フランス・ニース在住。

◆須藤岳史◆1977年茨城県生まれ。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者。オランダ・ハーグ在住。
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