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かもめアカデミー
地方の芝居小屋を巡る エンタメ水先案内人
仲野マリ
最終回 地芝居のミライ、歌舞伎のミライ㊦【岐阜・東美濃ふれあいセンター歌舞伎ホール】

東美濃ふれあいセンター歌舞伎ホール。緞帳は中山道の風景



「平成の芝居小屋」で気づかされた歌舞伎のミライ



 岐阜県中津川市に、東美濃ふれあいセンターという総合施設があります。バレーボールやバスケットボールができる多目的アリーナを有する一方、同じ階に座席数600の「歌舞伎ホール」も。歌舞伎以外のイベントにも対応できますが、舞台前方7列分の椅子は床下に収納して桝席にもなり、花道やスッポン、セリなど歌舞伎独特の装置を備えた本格的な劇場です。

東濃歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵(松の廊下)」(2018)

 このホールができたのは2000年。当時岐阜県では、全国の自治体で最多の32の地芝居保存団体が活動していることに注目し、「わが県の地歌舞伎(*1)を後世に伝えていこう」という機運が高まりを見せていました。歌舞伎ホールのオープンもあり、それまで3年に1度だった「東濃歌舞伎中津川保存会 吉例歌舞伎大会」も毎年開催するようになります。そして平成21年(2009年)、日本一芝居小屋が多く残っている東濃地方の地歌舞伎と芝居小屋(恵那市・中津川市・瑞浪市)が、県から「岐阜の宝もの」(*2)として認定されました。翌2010年には応援組織「岐阜自慢ジカブキプロジェクト」も発足します。


東濃歌舞伎公演「絵本太功記(十段目)」(2019)

 「東濃歌舞伎中津川保存会 吉例歌舞伎大会」を観るためにこの歌舞伎ホールに通い始めて早3年。物語や人物をくっきりと表現する演技には、いつも胸を打たれます。驚かされるのは日ごろの稽古の仕方。振付師がいらっしゃることは知っていましたが、そうだとしてもプロの舞台を見て研究したりするのかと思っていたら、「ほとんどの人間は、歌舞伎座はおろか名古屋の御園座にも行ったことがありません」と言うではありませんか!
 「それではどうやってあそこまで奥深い役作りができるのですか?」と問うと「ひたすら台本を読むんです」という答えが返ってきました。台本、つまり浄瑠璃本を読み込むというのは、プロの役者でも最も大切なことと言われています。形から入るのではなく、とことん物語と向き合ってつくられる舞台からこそ、地芝居はこれほどまでに人の心を揺さぶるのだ!と納得しました。


東濃歌舞伎公演「神霊矢口渡(頓兵衛住家)」(2019)

 さらに私の認識を180度変えたのが、女性の活躍です。現在、プロの歌舞伎は男性だけで演じていますが、それはなぜでしょうか。女方と女性は違う、衣装も重いし女性にはできない、女性が演じると妙になまめかしくなるなど、男性だけである理由はいくつも耳にします。私自身、単に「決まり」や「伝統」なのだと納得し、男性だけの歌舞伎に何の違和感もありませんでした。けれども東濃歌舞伎で女性が演じた「神霊矢口渡」のお舟(*3)を見た時、そんな「常識」は吹き飛びました。それはこれまで私が観てきた中で、最高に心揺さぶられたお舟だったのです。プロでなくては、男性でなくてはできない女方などない……そうはっきり感じた瞬間でした。

 役者だけではありません。東濃に限らず地方に行くと、太夫も三味線も人形遣いも、女性は至る部門で力を発揮し、プロに劣らぬパフォーマンスを見せてくれます。私は女性でありながら女性の力を見くびっていた、偏見をもっていたということを、地芝居に教えられました。師匠の言葉に耳を傾け常に本と向き合い、研究熱心で稽古に励む人には、プロもアマも、男も女も、大人も子どももないのです。

 今、歌舞伎は大いに人気がありますが、少子高齢化で人口減少が急速に進む日本で、「男性だけ」の今の形でいつまで歌舞伎をやっていけるのか、時々不安になります。女性でも子どもでも外国人でも、歌舞伎を愛し精進する人たちがいれば、質の高い歌舞伎は無事に受け継がれていく。そうした歌舞伎のミライをも、地芝居は宿しているのではないか。私は本気でそう思っています。(おわり)

「地歌舞伎勢揃い公演」開催!【ぎふ清流文化プラザ】



2020地歌舞伎勢揃い公演チラシ

 岐阜県には今回の連載中に紹介した東濃歌舞伎や高雄歌舞伎、垂井曳やまなどをはじめ、30を超える「地歌舞伎」保存団体があり、活発に活動しています。各保存会はそれぞれ発表の場を設けていますが、2020年、ぎふ清流文化プラザの長良川ホールで「勢揃い公演」が開催されるというニュースが飛び込んできました! 「勢揃い」といってももちろん30団体を一日では無理。1月から7月の土曜・日曜を使い、のべ11日で網羅しようというものです。
 保存会によっては公共交通の便がよくなかったり、芝居小屋の収容人数が少なかったりすることがネックでなかなか知られにくいものもある中、ぎふ清流文化プラザはJR岐阜駅からバスで20分という立地にあり座席数が500席。今回の試みは、さまざまな地歌舞伎を観るよい機会になるのではないでしょうか。この勢揃い公演をきっかけにして、「今度はぜひその町に行って芝居を見たい!」と各地域に足を運んでくださる方が増えることを、今から期待しています。

(*1)地方の芝居を、歌舞伎も人形芝居も含め「地芝居」というが、岐阜では歌舞伎に特化して「地歌舞伎」と称している。
(*2)岐阜県は平成19年に「みんなでつくろう観光王国飛騨・美濃条例」を制定。地歌舞伎と芝居小屋は、観光王国岐阜県の実現を目指す飛騨・美濃じまん運動推進に欠かせない「宝物」の一つとなった。最近ではスペイン・フランスなど海外公演も果たすとともに、隈取やおひねり・大向うなどの観客体験型プログラムも積極的に提供するなど、官民が一体となって地歌舞伎を多角的に発信している。
(*3)渡し守の娘・お舟が一目ぼれした男・義峯は、お舟の父によって兄を殺されていた。義峯の命も危うくなったとき、お舟は難しい決断を迫られる。


◆「東濃歌舞伎中津川保存会 吉例歌舞伎大会」に行くには
毎年3月の第一日曜に開催。美濃ふれあいセンターへはJR美乃坂本駅からタクシーで約5分。大会当日は、JR中津川駅からシャトルバスが出る

◆「2020地歌舞伎勢揃い公演」に行くには
2020年1/19、2/15、3/8、4/19、4/26、5/10、5/24、6/7、6/21、7/12、7/19
各日1~4団体の公演を予定。ぎふ清流文化プラザへはJR岐阜駅からバスで約20分

(写真提供:仲野マリ)

【仲野マリ公式サイト「エンタメ水先案内人」】
http://www.nakanomari.net

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【なかの・まり】
1958年東京都生まれ、早稲田大学第一文学部卒。演劇、映画ライター。歌舞伎・文楽をはじめ、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど年100本以上の舞台を観劇、歌舞伎俳優や宝塚トップ、舞踊家、演出家、落語家、ピアニストほかアーティストのインタビューや劇評を書く。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視したわかりやすい劇評に定評がある。2013年12月よりGINZA楽・学倶楽部で歌舞伎講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を開始。ほかに松竹シネマ歌舞伎の上映前解説など、歌舞伎を身近なエンタメとして楽しむためのビギナーズ向け講座多数。
 2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)「同性愛の至福と絶望-AMP版『白鳥の湖』をプルースト世界から読み解く」で佳作入賞。日本劇作家協会会員。『歌舞伎彩歌』(衛星劇場での歌舞伎放送に合わせた作品紹介コラムhttp://www.eigeki.com/special/column/kabukisaika_n01)、雑誌『月刊スカパー!』でコラム「舞台のミカタ」をそれぞれ連載中。
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