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かもめアカデミー
地方の芝居小屋を巡る エンタメ水先案内人
仲野マリ
最終回 地芝居のミライ、歌舞伎のミライ㊤【滋賀・長浜曳山祭】

八幡宮の境内に次々と到着し、整列する曳山(2017)



世界遺産になったモバイル芝居小屋 



 平成28年(2016年)、京都の祇園祭・山鉾巡業をはじめとする「山・鉾・屋台行事」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。日本全国にある「山・鉾・屋台行事」のうち、登録されたのは33件。滋賀県長浜市の「長浜曳山(ひきやま)祭」もそのうちの1つです。
 祇園祭に勝るとも劣らぬ豪華さで「動く美術館」ともいわれていますが、長浜ならではの最大の特徴は、曳山上で子ども歌舞伎が上演されることでしょう。曳山は幅約3m、奥行約7m、高さ約7m、重さは約6t。入母屋造で2階建、その1階部分前方にあたる約四畳半の舞台に何人もの子どもたちが上がり、たっぷりと芝居を演じるのです。

 私が曳山祭のことを知ったのは、所用で長浜市を訪れた時、街を歩いていて目についた「曳山博物館」にふらっと入ったのがきっかけです。まずは展示されている本物の曳山の大きさに圧倒されてしまいました。そして館内に流れるビデオにくぎ付け。毎年4月上旬に行われる大祭に向けて子どもたちが歌舞伎の稽古をする様子を見て、すっかり彼らの虜になった私が、翌年の大祭に出かけたのは言うまでもありません。

四畳半の舞台に上がる子ども役者たち(2017)

曳山の舞台の周りに張り出した付け板の上で演じる役者と、それを支える若者衆(2017)


 長浜の曳山は全部で13基。毎年必ず曳き出される長刀山(なぎなたやま)を除いた12基が歌舞伎舞台となるのですが、この12基の中から交代で毎年4基ずつが巡行します(*1)。それぞれの曳山が所属する町内の街角で歌舞伎を上演する「自町狂言」が終わると順次、八幡神社に曳行(これを「登り山」と言います)し、境内に曳山を並べて神様の前で「奉納狂言」を行います。
 京都の祇園祭りでは現在、長刀鉾に1人だけ稚児が乗ってあとは人形ですが、昔はすべての山鉾に稚児を乗せていたといいます。長浜の曳山で子ども歌舞伎の奉納が行われるのは、単に子どもだと可愛いとか大人では入りきらないとかの理由ではなく、無垢な稚児の神聖さに祈りを託するという意味があるに違いありません。

自町狂言を終え八幡宮まで曳行するのは、町会ごとに決まった揃いの法被姿の男たち(2017)

 ですから祭りの本分は、神社での「奉納歌舞伎」。でも私は、「自町狂言」に大きな魅力を感じました。どこかへ芝居を観に「行く」のではなく、芝居が町まで「来て」くれる「モバイル芝居小屋」的な魅力があるのです。
 町の中で見る曳山は、非日常であるはずの劇場空間が日常生活の中に現れながらも景色に馴染み、いかにもふるさとの祭りの一コマというなごやかさがあります。狭い路地であったり駅前の駐車場であったりと街角で行われる自町狂言は、曳山の周りに押すな押すなの人出。舞台の正面から観られるとは限らず、横から見ることもしばしばです。そうであっても、出演する子どもたちの世話をする人、曳山から張り出した付け板を支える人、曳山の移動時に屋根の上から指令を飛ばす人など、裏方の苦労をすぐ目の前で見られる臨場感は格別。ワクワクがとまりません。

曳山博物館

 ユネスコ無形文化遺産になったことで、長浜の曳山祭はより注目を浴びることになりました。2017年には11年ぶりに全13基が八幡神社の境内に曳き出され、その雄姿は圧巻だったといいます。私を曳山祭の虜にした前述の曳山博物館は、観光スポットであると同時に文化継承の基地でもあります。
 有形文化の点からは、曳山の修復ドックを備え、修復を通じて伝統工芸の継承に努め、無形文化としては子ども歌舞伎を絶やさないよう「三役修行塾」(*2)を開講。この地の誇る文化財のこうした保護継承の精神も、ユネスコに登録された理由の一つではないでしょうか。

 曳山の整備、曳き手の確保、子ども歌舞伎の役者などなど、毎年欠かさず祭りを開催するのは金銭的にも人材的にも容易なことではありません。地元の人たちの参加意欲が増してスポンサーも増え、そして観光に訪れる人が多くなるために、世界的に認められたことがいい追い風になってくれるのではと思っています。

「古式練り込み」はテーマパークのパレード!
【岐阜・垂井曳やままつり】



衣装を着けて行進する役者たちの古式練り込み(2019)

 曳山の上での子ども歌舞伎は長浜だけの専売特許ではありません。私は岐阜県不破郡垂井町で毎年5月に行われる「垂井曳やままつり(*3)」に行ったことがありますが、ここでも子どもたちは大変質の高い演技を見せてくれました。曳やまは3輌。漆塗りに蒔絵、彫刻金具を施した豪華さで、“動く陽明門”とも称されるほど。南北朝時代の1353年以来660年以上も続くといわれ、その上で子ども歌舞伎をやるようになったのは、江戸時代安永年間(1772~1780)からだそうです。
 3輌とも毎年やまを曳き出して歌舞伎も上演。神社では横並びの3輌のうち、上演する曳やまが神殿の真正面に来るように、上演が終わるごとに曳やまを動かすのが特徴です。また「古式練り込み」(*4)という行列がかわいらしい! 出演者たちが舞台衣装を着て、町役場前から神社まで行進します。お父さんやお母さんも間近で写真を撮ったりしてうれしそう。羽織袴や法被姿の大人たちと演者たちが中山道の宿場町の風情を残す垂井の町を練り歩くさまは、さながらテーマパークのパレードのようです。

(*1)祭り期間中に巡行する曳山の数は通常、長刀山を加えた5基。歌舞伎を上演する曳山の出番は、それぞれ3年に一度ということになる。
(*2)曳山祭の歌舞伎で振付・太夫(語り)・三味線の三役を担う人材を養成する塾(平成2年に開講)。
(*3)正式には「やま」は車扁に山の一文字。パソコンでは変換できないが、「山車」を意味する「やま」の字として、地元では意識的に使われている。
(*4)長浜曳山祭でも同じような行列があり、「役者朝渡り」「役者夕渡り」と呼ばれる。


◆長浜曳山祭=1週間ほどの祭礼のうち、子ども歌舞伎が見られるのは毎年4月13~16日(JR長浜駅から長浜八幡宮まで徒歩約15分)

◆垂井曳やままつり=毎年5月2~4日(JR垂井駅から八重垣神社まで徒歩約20分)

(写真提供:仲野マリ)

【仲野マリ公式サイト「エンタメ水先案内人」】
http://www.nakanomari.net

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【なかの・まり】
1958年東京都生まれ、早稲田大学第一文学部卒。演劇、映画ライター。歌舞伎・文楽をはじめ、ストレートプレイ、ミュージカル、バレエなど年100本以上の舞台を観劇、歌舞伎俳優や宝塚トップ、舞踊家、演出家、落語家、ピアニストほかアーティストのインタビューや劇評を書く。作品のテーマに踏み込みつつ観客の視点も重視したわかりやすい劇評に定評がある。2013年12月よりGINZA楽・学倶楽部で歌舞伎講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を開始。ほかに松竹シネマ歌舞伎の上映前解説など、歌舞伎を身近なエンタメとして楽しむためのビギナーズ向け講座多数。
 2001年第11回日本ダンス評論賞(財団法人日本舞台芸術振興会/新書館ダンスマガジン)「同性愛の至福と絶望-AMP版『白鳥の湖』をプルースト世界から読み解く」で佳作入賞。日本劇作家協会会員。『歌舞伎彩歌』(衛星劇場での歌舞伎放送に合わせた作品紹介コラムhttp://www.eigeki.com/special/column/kabukisaika_n01)、雑誌『月刊スカパー!』でコラム「舞台のミカタ」をそれぞれ連載中。
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