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Books(書評) 4月号
表紙 戦中文学青春譜
多田茂治著/海鳥ブックス 1,700円

 戦時下の青春の記録

 日本が中国に侵略し、やがて太平洋戦争に突入しようとしていた昭和十四年、九州は旧制福岡高等学校(現在九州大学)の卒業生を中心にした同人誌「こをろ」が創刊され、戦争が破局に近い昭和十九年まで十四号も続けられた。

 この時代の学生たちは、厳しい思想統制・検閲制度で言論の自由はなく、いつ戦争に駆り出されるかの淵に立たされていた。その中で、高学歴で文章表現力のあった「こをろ」の同人たちは、自分なりの青春を開花させようと、検閲をかいくぐり、懸命に「書く」という行為を続けていた。

 「こをろ」は趣味的な文学オンリーの同人誌でなかった。もっと幅のある文化主義的な「精神的連帯による集団」であり、共同の「精神的気圏」「文化的気圏」を目指したものと述べられている。創刊に参加した学生も文系・理工系・医学系と多士済々の三十五名で、福岡高校グループ・長崎高商グループ・福岡高商グループの三グループの構成であった。

 国体護持・大政翼賛に思想が統一されていた時代に、自由な「精神的・文化的気圏」をもとめた学生たちの心情は、ただ束の間の自由な精神の謳歌だったろうか。この実りは戦後に現れる。
その中に、作家として阿川弘之・小島直記・島尾敏雄・真鍋呉夫、詩人として一丸章・小山俊一、また「書肆ユリイカ」を創設した伊達得夫も参加していた。この顔ぶれは大変なものだが、中心になった矢山哲司も、戦後まで生きていたらどうだったろう。立原道造と親交のあった詩人だが、戦中に他界してしまった。

 「南京ニ菊ハ咲キマシタカ/慰問袋からぽろりとおちた/いくつか黄色になえた/こどものつんだ白菊の冠/かみしめかみしめ/兵士はほろほろないた」(「勲章」より、詩集『勲章』)
矢山の詩だが、厳しい時代に戦争への痛烈なアイロニーが込められている。彼の評論にも、戦争賛美や「日本浪漫派」のような皇国思想の鼓吹はなかったといわれる。この同人たちもやがて戦場に駆り出されることになるが、多くの学徒兵は農民出身の下級兵士とはいろいろな点で異なっていた。万葉集やゲーテ、あるいは宮沢賢治を携えた者が多かったといわれる。それだけ恵まれた兵士であった。

 だが東北の貧しい寒村から駆り出された兵士は、千人針やお守りだけを持ち、残されたものは故郷への手紙であった。

 著者も「これは福岡という一定の地域にしぼった一つのサンプルに過ぎない。たぶん、日本の各地で、戦時下のこうした青春の営為があったことだろう」というが、いまこそ、兵士たちの手紙や学生たちの書き残したものが収集・発表されなければならない時である。
(評・亜沙ふみ郎)

ただ・しげはる
一九二八年福岡県生まれ。九州大学経済学部卒。著書に『内なるシベリヤ抑留体験』『夢野一族|杉山家三代の軌跡』など。



表紙私の速水御舟
吉田武著/東海大学出版会 2,400円


 数理工学者の日本画鑑賞法

 見ることは絵画の基本である。

 本書は中高生向けの数学入門書『虚数の情緒』のロングセラーでも知られる数理工学者が速水御舟の日本画を評する、一風変わった美術論だ。
科学者の眼差しは如何にして、奥ゆかしい日本画にメスを入れるのか?
ところが、著者の評論姿勢は「観て・感じて・考える」という、意外やシンプルなものである。

 鑑賞するのは十五歳の作「蓬莱図」から、遺作となった「盆梅図」までの九作品。速水御舟は明治から昭和初期まで活躍した画家であり、わずか四十年の人生だった。しかし、常に過去を破壊し、新たなるものを模索し続けた人らしく、そのバラエティに富んだ作風には驚かされる。
「藝術を鑑賞する為の『最善の方法』とは、出来る限り予備知識を持たず、周囲の雑音から耳も目も塞いで、作品に一対一で対峙すること、それも写真や複製ではなく出来得る限り現物を観ることである。」

 この著者の言葉どおり、本書の構成も「鑑賞」「感想」「考察」「資料」と分かれている。まず、一枚の絵がある。個人的な感想が述べられた後、少しずつ制作背景となる情報が開陳されてゆく。まっさらな状態で、絵を見つめる姿勢が大切なのだ。

 附録として収められている「日本画の絶対的定義について」は鈴木大拙の「即非の論理」を用い、「日本画とは何か?」といった、漠然とした問いに答えてみせる。こちらはいささか玄人向けだが、読みごたえのある評論だ。

 日本画や科学思想といった分野には、どうしても難解そうな先入観が付きまとうものである。まずはまっさらな状態で、この本を手にとってみてはどうだろう?
(評・都築隆広)

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